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税制上、家は22年で価値を失う
私は2013年春~2018年初夏の約5年間に渡り、新潟県内の住宅情報誌の編集に携わっていた。
そして、その間400軒を超える住宅の取材をした。
完成して数カ月~1年程度の家を訪れることが多かったが、ほとんどのご家族が最新設備を備えた新居にとても満足し幸せそうであった。
しかし、多くの人が住宅をキャッシュで買うわけではなく、数十年のローンを組んで購入をしている。
例えば、30年のローンを組んだ場合においては、30年間はその家に住み続けるのが前提になるだろう。
(途中で売却をしてもいいが、木造住宅の耐用年数は22年(実際の耐久年数ではなく、あくまで税制上の建物価値が持続する年数である)。建物価値は22年掛けて0へと右肩下がりに下落していくので、早々に売却をすることは大きな損失を意味する)
繰り上げ返済をせずに毎月定額のローンを支払い30年が経つと、晴れて土地と家が自分のものになる。
しかし、30年間住む場所を固定するというのは、ものすごい覚悟を持つ必要があるのではないか?と感じてしまう。
私は現在35歳で妻と2歳の息子と3人で暮らしているが、今家を購入し65歳まで同じ場所に住むということがイメージできていない。
・その間に自分の仕事が変わる可能性がある。
・子どもが家を出て独立したら、小さな家で十分である。
・世の中の価値観の変化に対応できない。(30年の間に現在の持ち家・賃貸とは異なる魅力的な住まい方が登場する可能性がある)
そんなわけで、400軒以上もの持ち家を取材し、たくさんの家族の幸せな暮らしを見聞きしながらも、自身に置き換えた時に今のところ「自分も家を買おう」というところには至っていない。
新築の家での暮らしがフィットしていた先輩家族
この年になると友人や同僚など、身近な人たちで家を購入する人が増えてきた。
私の元同僚で、今も仲良くしてもらっている好きな先輩がいるのだが、彼は数年前に住宅を購入した。
時々家族で遊びに行ったりもする。
新潟県内で人気の高いハウスビルダーで新築をした彼の家は、当然のごとく一般的なファミリー向けの賃貸住宅と比べてグレードは比べ物にならないくらい高い。
設計力も高く、土地の特性をうまく読み込んだ心地よい家で、家族3人で暮らしている。
彼の家に遊びに行くと、穏やかで幸せな日常を感じることができ、私も嬉しい気持ちになるし、うらやましいなあと思う。
彼は資金計画について調べることが好きだったし、ファイナンシャルプランナーに相談をしながら、予算やローン選びを確定していった。
だから、住宅の耐用年数など資産形成上の課題も当然知っていたが、住宅購入を決めた。
そして、先輩家族は事実、幸せに暮らしている。
「幸せに暮らす」というと抽象的な表現になるが、新築の家を建てて暮らすことが実にフィットしていた、というのが正しいかもしれない。
持ち家は刺激よりも穏やかな日常を好む人に合っている
では、なぜ先輩家族に「新築の家がフィット」していたのか?
私は夫婦の価値観や行動に一つの答えがあるように思った。(もちろん答えはいくつもあるので、あくまで一つとしたい)
まず、彼らは旅行がそれほど好きではない。
普段の週末は自宅や半径20kmエリアで過ごすことが多いようで、GWやお盆などのまとまった休暇でも、あまり遠くへ泊まりで旅行に行くという話を聞かない。
刺激を求めて知らないところへ旅をする、ということにはあまり関心を持っていない。
あちこち出掛ける人と比べると、自ずと自宅で過ごす時間は長くなるだろうし、それならば自宅を快適にすることのプライオリティが高くなる。
宿泊を伴う旅費に年間50万円を使う家族と比べたら、その差額をそのまま住宅に充てることで高い満足感が得られるということになる。
先輩夫婦は穏やかな日常の豊かさを大切にしているのだ。
持ち家がいいのか?賃貸がいいのか?家族の価値観を見直すことがスタート地点
この先輩家族の話から言えることがある。
それは、住宅の耐用年数が22年だから投資として不向きだとか、30年以上住む場所を固定化させるデメリットとかいう話は、全く持って見当違いな指摘にしかならないということだ。
生活の質や人生における幸福度を上げる手段が住宅なのだから、投資の話など持ってくる必要がない。
30年以上住む場所を固定化させるデメリットについても、当事者は大したデメリットに感じていないのだ。
では、もしも、旅行が大好きで、住む場所を変えることに抵抗がなく、仕事やライフスタイルを変えていく人生を好む人にとってはどうだろうか?
それは、持ち家が家族を不幸にしてしまう可能性があるというものだ。
「賃貸と持ち家、どっちがお得!?」という永遠に解決できないテーマがある。
しかし、そもそも住まいを得かどうかだけで判断するべきなのだろうか?
家族の価値観の棚卸をした上で、持ち家が自分たちに「フィット」するかどうか?
実はそれこそが最も重要なことなのではないかと思う。
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